教えて!トリ博士

第6回 よい鶏づくり
3カ条
その1「よい雛」

教えて!トリ博士
[第6回]  よい鶏づくり3カ条その1「よい雛」

よい鶏をつくるのには
3カ条があります。
それは「よい雛、よい餌、よい管理」。
今回は「よい雛」について
お話ししましょう。

「よい雛」って何?

「雛のときに元気」という意味ではありません。大きくなったときに育種(品種改良)目的を満足させる生産を果たす雛が「よい雛」です。生産者が理想とする育ち方をし、成長したときに理想の生産をする能力がある雛、いわば「血統」です。

「よい雛」の変遷

昔は卵肉兼用種しかおらず、単に健康に育ち長期にわたり生産を続ける雛が「よい雛」でした。

やがて兼用種の中から産卵能力の高い品種を土台として育種が進み、採卵専用の品種を開発、同様に産肉能力の高い品種から肉用の品種が開発され普及しました。「第2回」でもご説明した専用種、「卵用鶏」と「肉用鶏」です。

第二次世界大戦後の人口増加により生産量増大の必要と生産コスト節減の面から、卵用鶏も肉用鶏も大群飼育へと移行しました。農業生産指向から工業生産指向である大量生産型になったのです。この時代は「たくさん卵を産む」「早く大きくなる」雛が「よい雛」でした。

昔は日本人の育種能力は世界でも高く評価され、愛玩用ですが日本で改良されたチャボはジャパニーズ・バンタムとして海外でも人気で、ボクシングのバンタム級の由来にもなっています。実用鶏でも日本鶏の採卵能力はよく知られていましたが、量産が求められる時代には主流ではなくなってしまいました。卵用鶏はケージ飼育へと進行しましたが、これが現代ではAW(アニマルウェルフェア)の観点から非難を受けています。

肉用鶏も早く大きくなるブロイラーが進展しましたが、フランスではこれに対抗するため「ファルミエ」を打ち出しました。これは「農家の生産物」の意味で、ブロイラーのような工業の大量生産の考えによるものではないことを主張したものです。世界に名だたる赤ラベル鶏(ラベル・ルージュ)がファルミエで、飼料効率がよいこと、スロー・グロウス種(第2回参照)であることを兼ね備えた鶏として評価を得ています。
このように、求める雛の“能力”は、時代によっても生産者の志向によっても変わってきています。

日本赤鶏協会の「よい雛」

日本赤鶏協会が、なぜ赤鶏の“能力”を求めるのか。赤鶏を「よい雛」と考えるポイントをお知らせしましょう。

まず、このコラムでもよく登場するAWの観点です。スロー・グロウスで自然にゆっくり大きくなることは鶏にやさしい育ち方といえます。そしてもう一つ「AMR」のこと。
近年、抗生物質などの抗菌薬が効かないAMR(薬剤耐性)をもつ細菌が世界中で増えて、問題になっていることをご存知でしょうか。WHO(世界保健機関)でも「薬剤耐性に関するグローバル・アクション・プラン」が採択されています。この問題は簡単にいうと、感染症治療のために抗菌薬を使うと細菌が生き延びる方法を考え新たな耐性菌を生み出し、さらに新しい抗菌薬が開発されるとそれに耐性を持つ菌が生じ、それが繰り返されて抗菌薬が効かなくなるという問題です。抗菌薬の使用は必要なときだけに絞り込みそれ以外では使わないようにすることが非常に大切なのですが、抗菌薬は畜産業で広く用いられ、感染症を治すだけでなく予防のために飼料に添加されていることもあります。さらに、動物のもっている薬剤耐性菌が畜産物を介して人に広がり環境が汚染される場合があることもわかってきました。

赤鶏の血統は、もともと原種に近く抗病性を身につけており、AWに即した自然に近い増体、密度を抑えた飼育でおのずと病気になりにくく、抗菌薬がなくても飼育できる血統と環境を備えています。

日本赤鶏協会は、食糧生産農業者として安全な動物性たんぱくを生産することを責務とし、「AW」「AMR対策」の面からも、持続可能な生産ができる赤鶏を「よい雛」と考えています。

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