教えて!トリ博士

第5回 世界の潮流は
“アニマル
ウェルフェア”
〈現代編〉

教えて!トリ博士
[第5回]世界の潮流は“アニマルウェルフェア”〈現代編〉

日本では発展途上
「アニマルウェルフェア」。
“世界のいま”
“日本のいま”
そして次代に向けて
現在の日本でできる鶏づくりとは。

アニマルウェルフェアの
5つの自由

本サイトで幾度となく登場する言葉「アニマルウェルフェア」。あなたは知っていましたか? 日本ではここ5年間85%前後の人が知らないままで、あまり変動はありません。

メディアで取り上げられるのも犬猫などペットのアニマルウェルフェア(以下AW)が多いように思われます。

ヨーロッパで定着し、国際的にも知られた概念ですが、なぜ「畜産のAW」がこれほど日本では認知されていないのでしょうか。一言でいえば「歴史が違うから」。なんとヨーロッパとは184年もの開きがあります(第4回〈歴史編〉参照)。

ヨーロッパでは共通のAWの指針が普及し、イギリスではRSPCA(英国王立動物虐待防止協会)のフリーダムフード、フランスでは独自にAOC(統制原産地呼称)ラベル・ルージュ、オランダではチキン・オブ・トゥモロウなど、AWに限らず日本よりもはるかに高い意識で家畜の飼養管理に取り組んでいます。

AWの歴史だけじゃない
“有機”に対する土壌

元々AWがヨーロッパで盛んになったのは市民運動からと言われています。やや古いデータですが、2007年のEUの世論調査で、「動物福祉の取り組みについて10人中8人が『重要である』と回答している(引用:独立行政法人 農畜産業振興機構 海外情報2007年4月3日号 https://lin.alic.go.jp/alic/week/2007/apr/761eu.htm)」との記事もあります。歴史が違うとはいっても、AW単体でこれほどまでにヨーロッパでAWが普及したのでしょうか?

ちょっと視点を変えて、有機(BIO、オーガニック)農業について考察してみましょう。
ヨーロッパでの有機農業取組面積の割合は、日本に比べて非常に高いですね。

ちなみに日本の0.2%は有機JASを取得している面積のみ計上していますが、“有機JAS認証を取得していないが有機農業が行われている農地”を合わせても0.5%程度であると推計されています。
また、市場がなければ生産もできませんが、ヨーロッパでは有機食品の消費額にも目を見張るものがあります。

なぜこのようにヨーロッパでは市場も生産も「有機」における土壌が育まれたのでしょうか。そしてAWが普及したのでしょうか。

まず、アメリカのレイチェル・カーソンの著書「沈黙の春(1962年)」。これにより、世界の国々は有機に立ち返る必要性を認識し、大いに反省させられました。そしてそれに影響を受けて発表されたイギリスのルース・ハリソンの「アニマル・マシーン(1964年)」。工場的畜産の実態と問題点をAWの観点から指摘し、1990年代以降のヨーロッパのAW関連法案や、2000年代以降のOIE(国際獣疫事務局)のAW国際ガイドラインの策定へとつながりました。

さらに1986年にイギリスで発見されたBSE(牛海綿状脳症)への危機感から有機畜産物への需要が高まり、2000年代以降は世界規模の倫理観に関わる食糧需給上の問題がFAO(国際連合食糧農業機関)によって提示され、SDGs(持続可能な開発目標)へ意識が高まっていったと考えられます。

EUにおける有機農業に関する報告書に「有機農業はAWに貢献し、持続可能な農業生産方法の一つとされる(要約)」とあるように、AWは単独ではなく、有機を基盤として、ヨーロッパでは成長していったと言えます。

有機はもともと日本の農業
AWとこれからの鶏づくり

AWでは遅れをとる日本ですが、高度経済成長期以前の農業は化学肥料を使用しない有機農業であり、しかもAWなどのような輸入概念ではなく、有機農業は日本ですでに身についている概念です。2006年に「有機農業推進法」も策定され、消費者の17.5%が週に1回以上有機食品を利用しています(農林水産省「有機農業をめぐる事情(R2.9)」から)。

しかし、有機がある程度普及しているのは野菜などの農産物であり、2020年7月から有機の畜産食品にJASマークが必要になるなど基準の明確化は進んでいるものの、有機畜産物は普及には至っていません。我々は「赤鶏」を推奨する団体ですが、赤鶏もまた有機畜産物ではありません。現在の日本では、有機畜産物づくりが非常に難しいからです。

その主原因は飼料です。日本では牧草地が少なく飼料は輸入に頼らざるを得ませんが、有機畜産には有機土壌で栽培された飼料が必要となり、価格面で先進国商品との競争ができなくなるのです。しかし「できないから何もしない」という姿勢では、環境問題を重視する世界の潮流に遅れ、やがて日本の畜産は衰退するでしょう。

「現状であってもやれること」「よい鶏づくりとは何か」を考え、試行錯誤して辿り着いた鶏、それが「赤鶏」です。

AWも有機も、さらにいえばSDGsもエシカルも、根底にあるのは倫理的に持続可能な社会に向かった提言や行動です。効率のための過度な増体性能を求めずに自然にゆっくり育つ品種(スロー・グロウス種)を用いて、AWの見地から鶏が“通常の行動様式”ができるように育て、少しでも地産地消に貢献できるように“地域の飼料米を使う”など、種鶏、飼料、飼育方法を考えた鶏づくりを進めています。

赤鶏は有機畜産物ではありませんが、AWを考えた鶏です。日本赤鶏協会は、「赤鶏」を通して持続可能な社会づくりに貢献していきたいと考えています。

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